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第四回 「信仰心を数字にすると」

皆さま、遅くなりましたが、新年おめでとうございます。2011年もどうぞよろしくお願いします!
さて、年末年始、皆さんはどのようにお過ごしになったでしょうか?クリスマス、大晦日、お正月と、イベントの多い季節です。そして、この季節は、色んな宗教行事に触れる機会のある時期でもあります。今回は、「宗教意識と数字」をテーマに扱いたいと思います。


【信じている宗教はありますか?】

最初に、例に挙げた、クリスマス、大みそか、お正月、の宗教行事と、その由来をごく簡単にまとめておきます。

クリスマス...
いわずと知れた、キリスト教の開祖である、イエス・キリストの生誕の日です。クリスマス前後は、多くの教会が一般の方向けの特別ミサを開いています。現在ではキリスト教圏だけではなく、世界中でクリスマスが祝われています。しかし、時期や、祝い方は国ごと、地域ごと、あるいは、キリスト教の宗派ごとで異なります。

大晦日...
「大晦日」という言葉自体には宗教的な意味は全くありません。月の最終日を「みそか」と呼び、一年の最後の最後、というわけで、「大」がついているだけです。
紅白の後の「行く年来る年」で、除夜の鐘を聞いて新年を迎えるご家庭は21世紀の今も多いと思います。この除夜の鐘、お寺で行われる仏教の行事です。108回鐘を撞く理由は、人間の煩悩が108あるから、とか、四苦八苦を足すと108になり(4x9=36と8x9=72の合計)、それを取り除くため、など、諸説あります。

お正月 ...
お正月の風習(お正月の飾りや、料理、初詣等)は、神道に基づくものです。神道とは、特定の一人の神様(あるいは、宗教者)を敬うものではなく、地域や家庭ごとにいると信じられている神様を信仰する、地域指向の民俗的な信仰体系のことを指します。
けれども、現在では、特別「神道」が強く意識されているわけではなく、初詣で明治神宮に次いで、参拝者が多い成田山新勝寺は、お寺ですので仏教です。

それぞれの行事の由来、しきたり等は、キリスト教、仏教、神道、それぞれさらに細かく分類することが出来ます。が、このコラムでは宗教の分類のお話をしたいわけではないので、細かい話はしません。

では、みなさんは、特定の宗教を信じていますか?クリスチャンだったり、仏教徒だったり、どこかの神社の氏子だったり、という人はどれくらいいるでしょうか。このコラムをご覧になっている方では、特定の宗教を信仰している人はかなり少ないと思います。

そもそも、昔から「日本人は無宗教だ」ということが言われています。皆さんも聞いたことがあるかと思います。そこで、このことを示すデータをいくつかご紹介したいと思います。まず、かつて文部科学省に属していた、統計数理研究所が5年ごとに行っている、「日本人の国民性調査」という調査からの数字です。


(図表1) 宗教を信じるか

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出典:中村 隆・前田 忠彦・土屋 隆裕・松本渉 2009
「国民性の研究 第12次全国調査?2008年全国調査」 統計数理研究所 研究リポート, No.99

これは、「あなたは、何か信仰とか信心とかを持っていますか?」との設問に対して、年によるばらつきはありますが、約3分の1が「1. もっている、信じている」を選択していることが分かると思います。皆さんの直感と比べて、どうでしょうか。

(余談ですが、この調査はとてもユニークで、
恩人が危篤、会議と帰省、どっちを優先する?
「アリとキリギリス、あなたがアリなら、キリギリスになんて言う?
といった設問を含んでいます。お時間のある方はぜひ一度、ご覧ください!)


【国際比較をすると...】

とは言え、他の国と比べないと、「日本人が無宗教かどうか」ということは分からないです。 そこで、国際比較をしたものをご紹介します。

主に欧米と比較したもの(「7ヶ国国際比較調査」)と、環太平洋地域の国々と比較したもの (「環太平洋価値観国際比較調査」)、の数字が公開されています(異なる調査のため、文言がそれぞれ少しずつ異なります)。


(図表2) 宗教国際比較(「7ヶ国国際比較調査」)

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出典:国民性の国際比較調査・国民性の国際比較研究委員会
研究代表:林知己夫(特別推進研究)、鈴木達三・吉野諒三(試験研究)(1985年~1994年)


(図表3) 宗教国際比較(「環太平洋価値観国際比較調査」)

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出典:国民性の国際比較調査・国民性の国際比較研究委員会
研究代表:研究代表:林知己夫(特別推進研究)、鈴木達三・吉野諒三(試験研究)(2005年~2008年)

いずれを見ても、日本人が他の国と比べて、特定の宗教を信仰している割合が低いのは事実のようです。


【無宗教と言えるか?】

けれど、これは信仰心が薄いことなのでしょうか?もう少し細かい数字をご紹介します。
「7ヶ国国際比較調査」では、「それでは、いままでの宗教にはかかわりなく、"宗教的な心"というものを、大切だと思いますか、それとも大切だとは思いませんか。」との設問も含まれています。その結果をご覧ください。こちらを見ると、日本は必ずしも低くないことが分かります。


(図表4) 宗教国際比較(「7ヶ国国際比較調査」)

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出典:国民性の国際比較調査・国民性の国際比較研究委員会
研究代表:林知己夫(特別推進研究)、鈴木達三・吉野諒三(試験研究)(1985年~1994年)

さらに分かりやすいように、この(図表2)と(図表4)をまとめてみます。


(図表5) 図表2と図表4をまとめて比較

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上記の図を見ていただくと、

  • ・アメリカ / イタリア / イギリス / フランス / オランダ
    →「信仰や信心を持っている人」の割合と「宗教的な心を大切に思う人」の割合が同等。
  • ・ドイツ
    →「信仰や信心を持っている人」の割合に比べ、「宗教的な心を大切に思う人」の割合が低い。
  • ・日本
    →「信仰や信心を持っている人」の割合に比べ、「宗教的な心を大切に思う人」の割合が高い。

ということが分かると思います。つまり、「日本人は、特定の宗教や教義に対する信仰は強くないが、『信仰』そのものを大切に思う気持ちは強い」ということが言えそうです。


【違うデータの見方】

以上、いくつかデータを整理しましたが、二つ、全く別の視点に基づいたデータを紹介して、数字を見るときに気をつけたほうがいいポイントをお伝えしたいと思います。

一つは、文部科学省の「宗教統計調査」という調査のデータです。これは平たく言うと、文部科学省が管轄している宗教法人に、「おたくの信者数ってどれくらい?」と聞く調査です。


(図表6)

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こちらをみていただくと、ん?総数が2億人を超えています。神道と仏教だけで1.9億人くらいです。日本の人口は1.2億人くらいですので、どう考えても不思議です。足して1.2億人を超えているだけでも不思議ですが、前述のように、特定の宗教を信仰している人は三分の一程度しかいないことを考えるとさらにおかしな話です。文科省が行った調査ならしっかりしているはずなのに、どうしてでしょうか。

これは、「信者」の定義が、各宗教団体に任されていることによります。つまり、神社が、あるいは、お寺が「うちの信者はこれくらい」と思った数がそのまま含まれているわけです。そこで、冠婚葬祭や、お祭りなどの行事に参加した人がいれば、信者とみなすとか、さらには家族までも信者とみなす、あるいはその地域の人は自動的に氏子とみなす、といった考えに基づいているからと推測されています。すると、冒頭の例で述べたように、何らかの形で、神道の行事にも仏教の行事にも参加している日本人は多いことが考えられ、神道と仏教だけで1.9億人、という統計が出てしまうわけです。

「水増し」と思われるかもしれませんが、神社、あるいはお寺から見れば、初詣の時だけくる人も大切なお客様ですし、回数が少ないから信心が薄いというのも勝手な話ですので、あながち強引な「水増し」というわけではないと思います。対して、キリスト教系では「洗礼」という定められた通過儀式があるので、比較的、実態を正確に反映していると言われています。なので、ちゃんとした機関が行った調査であっても、定義によっては私たちの肌感覚と違う結果になってしまう、ということは起こりうることです。

もう一つは、NHK放送文化研究所が定期的に行っている、「日本人の意識」調査の結果です(抜粋)。


(図表7)

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出典:現代日本人の意識構造
NHK放送文化研究所(2010年)

こちらをご覧いただくと、冒頭の統計数理研究所の結果(図表1)とは異なり、「信じていない」は30%以下となっています。違う団体が行っているので、簡単に比較してはいけないにせよ、差が大きすぎるように思えます。

この原因としては、図表1では、「信仰とか信心とか」とストレートに聞いているのに対して、図表7では、「宗教とか信仰とかに関係すると思われることがら」と、すこしやわらかい表現にすることで、「がっつり、特定の宗教を信じていなくてもいい」と思わせているからだと思います。また、図表1では、「信じている」か「信じていない」かの二択で聞いているのに対し、図表7では、「信じているもの」があれば、いくつでも選んでいいという聞き方をしているので、両方を信じている、と思っている人はどちらも回答することができます。

このNHK放送文化研究所の聞き方は、「特定の宗教を強く信じるわけではないけれど、宗教的行事に日頃、接する機会は多い」という日本人の実態をうまく反映することに成功している聞き方だと思います。

この文科省のデータと、NHK放送文化研究所の二つの例から言えることは、ちゃんとした機関がきちんと手間をかけて行なった調査であっても、回答する人や、設問文、回答の仕方によって、結果は違って見える、ということです。


【まとめ】

というわけで、まとめです。

  • ・日本人は、特定の宗教を信じている人は他の国と比べ少ない。
  • ・けれども、日本人は「宗教的な気持ち」を大切にする気持ちは強く、宗教に対する意識が低い「無宗教」という訳ではない。
  • ・アンケート結果を見るときは、「誰が実施しているか」だけではなく「誰が答えているか」「どんな風に聞いているか」も大事。

宗教のようにデリケートなテーマでは、聞き方によって答えの傾向が大きく変わることが考えられます。これは、調査を実施する人はもちろん、調査結果を読む人も気を付けるべきことです。皆さんもデータを勉強や仕事で調査結果を読む際にはお気を付けください!

では、また次回、別のテーマで、数字の見方をご紹介したいと思います。
寒い日が続きますので、ご自愛くださいませ。


PROFILE

IKENAGA Masayukiさん

IKENAGA Masayuki(いけなが まさゆき)
外資系の市場調査会社(マーケティング・リサーチ会社 )勤務。
自動車、生活用品 、顧客満足関連を中心に、国内外問わず多くの調査を担当。景気がいい頃は、海外出張も多かったけど、不景気に伴い今は地 味に内勤。時々、アンケートの「中 の人」をしています。数字を扱う調査が多いですが、実は根っからの文系。座談会、インタビュー形式の調査経験も豊富。30 歳目前で体重管理が目下の最重要プ ロジェクト。和食大好き。

twitter公式アカウント@ masayuki_i


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