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第二回「平均寿命の読み方」

こんにちは。 いきなり私事で恐縮ですが、今日、誕生日を迎えます。誕生日で思い出すのは、村上春樹の「プールサイド」という作品です。作中で主人公は35歳の誕生日を迎え、その「35歳」を人生の折り返し地点と決めます。その中にこんな一節があります。

「もし78歳まで生きるとすれば、彼の人生の折り返し点は39ということになるし、(中略)日本人男性の平均寿命と彼自身の健康状態をかさねあわせて 考えれば、78年の寿命はとくに楽天的な仮説というわけでもなかった。」

「日本人」「平均寿命」で検索してみると、現在の日本人の平均寿命が分かります。男性79.59歳、女性86.44歳です。某検索エンジンではグラフまで出してくれています。(なお、上述の「プールサイド」が最初に出版されたのは1985年で、その時の日本人男性の平均寿命は74.78歳でした)

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今回は、この「平均寿命」の意味、元となっている数値から見えること、そして、算出に重要な意味を持っている国勢調査に関してお話をしたいと思います。

☆ 平均寿命とは

この平均寿命ですが、きちんとした定義、ご存じでしょうか。これまた、ちょっと丁寧に調べれば分かりますが、調べないと分かりません。正確な定義は、厚生労働省のページに解説されています。

これをもう少し簡単に説明したいと思います。2009年を例にとると「2009年に生まれた赤ちゃんが、『2009年の年齢ごとに生存率』に基づいて成長する場合 、平均で何歳まで生きるか」を意味しています。より具体的には、2009年の25歳の人口と25歳でなくなった人の数が分かれば、「25歳の人の一年間の死亡率」を 知ることができます。これを全ての年齢で計算することで、0歳の赤ちゃんが平均で何年間生きることが可能と考えられるか、すなわち、平均寿命を出すことが 出来るわけです。なので、2009年になくなった方の死亡時の平均年齢ではありません。

この平均寿命は、2009年に産まれた赤ちゃんを基準としています。なので、男性の平均寿命が79.59歳であっても、「70歳の男性の余命が9.59年」と考えるの は、厳密には間違っています。こちらの『主な年齢の平均余命』 によると、70歳の男性の平均余命は15.10年です。言葉は乱暴ですが、79.59歳というのは、0歳~69歳までに命を落とす人も含めた平均値なので、70歳まで 生きた人だけで考えると、平均余命は長くなります。

この、年齢ごとの死亡率の表を分かりやすいようにグラフにしてみました。(図表1・2) 左側が0歳~50歳、右側が51歳~100歳です。縦軸の目盛りが違うことにご留意ください。 これらは、上述の厚生労働省のサイトのデータから作成したものです。

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(厚生労働省『平成21年簡易生命表』より作成)

これを見てもらうと、男女とも、乳児(0~1歳)での死亡率が高いことが分かります。これは、生後直後は、体の各機能が発達途上である上、免疫力等も弱 いことに起因するものです。しかし、後述しますが、それでも日本の乳児の死亡率は他の国に比べ、ダントツに低いです。そして、12歳くらいまでは、男女とも 、0.01%未満です。以降、徐々に死亡率は上昇していきますが、50歳でも、0.5%にも満たないです。

☆ 今、生きているということは

このデータを加工して誕生時を基準とした、それぞれの年齢まで生きられる可能性(生存率と呼ぶことにしましょう)を示したグラフを作ってみました。( 図表3)

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(厚生労働省『平成21年簡易生命表』より作成)

例えば、29歳男性の生存率を見てみると、98.8%です。これは、2009年の年齢別死亡率に基づいた場合、98.8%の男性が29歳終了時点で生存していることにな ります。つまり、1.2%(100%-98.8%)の男性は30歳を迎えることができないということです。 これは高いでしょうか?それとも低いでしょうか?40人1クラスの教室で考えてみると、2クラスに1人(1÷80=1.25%)とだいたい同じです。こう考えると、30 歳まで生きられないということは日本であっても他人事ではないと思えませんか?

また、還暦前である59歳終了時点の数値を見てみると、男性で、91.1%、女性で95.5%です。つまり、還暦を迎えられない人が、男性で8.9%、女性で4.5% いるということです。この数字から言えることは、もし、あなたのご両親が無事に還暦を迎えているとすれば、それは決して当たり前のことではないということ です。この数字に基づくと、一人の男性と一人の女性が、共に60歳を迎えられる可能性は約87%です。さらに、これは2009年のデータに基づいた試算ですから、 それ以前に産まれている場合は、その割合はさらに低いはずです。

このように、データをちょっとまとめると、世界一の長寿大国と言われている日本でも、生と死はとても身近なことが分かると思います。平均寿命は確かに 、男性79.59歳、女性86.44歳です。だからといって、誰もが70~80歳まで生きられる、という訳では全くないのです。

【他の国と比べると...】

とはいえ、日本が世界有数の長寿大国であることは間違いありません。二つ、国際比較のデータをご紹介します。(図表4・5) 図表4が、先ほど紹介した乳児死亡率、図表5が、成人死亡率です。乳児死亡率とは、出産数1,000あたりの、生後1年未満で死亡となる数字、成人死亡率とは、 15歳の人口1,000人のうち、60歳を迎える前の死亡数のことです。それぞれ、ワースト10、及び、GDP上位10カ国を抜粋しています。いかに日本が低いかが分かる と思います。

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WHO及びMEMORVAより引用の上、作成)

さて、こういったデータですが、正確な人口が分からないことには算出できません。この人口はどうやって計算されているのでしょうか。その答えは、現在 実施されている日本居住者の一斉調査である「国勢調査」です。先ほどお見せしたいくつかの図表は、『簡易生命表』という表に基づいて作成していますが、こ れとは別に『完全生命表』という表があります。両者の違いとは、住民基本台帳(住民票の情報)から基づいて作成されているものが『簡易生命表』で、国勢調 査(住民票ではなく、実際の居住状況)を用いて作成されているのが『完全生命表』です。

なぜ住民基本台帳に基づいて作成されているものが『簡易』で、国勢調査のデータを用いて作成されているものが『完全』なのでしょうか。それは一言で言 えば、「戸籍情報だけでは必ずしも実態を示しているとは言えない」からです。実際は東京に住んでいても、戸籍(住民票)は地元のまま、という方、読者の中 にもいらっしゃると思います。留学していて/旅に出かけて、長期間日本にいない、という方もいらっしゃると思います。住民基本台帳では、こういった方達を 「その自治体に住んでいて、生活している」と判断してしまいます。そこで、より正確な実態、「本当に住んでいて、日々生活している人たち」を反映した調査 である「国勢調査」のデータも利用して作成されている平均寿命等のデータを『≪完全≫生命表』と呼んでいる訳です。

そこで、最後にこの「国勢調査」に関してご説明したいと思います。

国勢調査に関しては、総務省により、特設ページ や、 「国勢調査の概要」(PDF)「調査結果の活用事例」が用意されています。その他にも、お住ま いの地方自治体でもWebやチラシによって広報がされていると思います。

が、きっと読んでいない人もいらっしゃると思うので、すごく平たく言うと、「五年に一度、行なわれる、国内に居住するあらゆる人(外国籍の人を含む) を対象とした、公共サービスの基礎データを集める調査」です。その実施規模は大きく、前回(2005年)の調査では、調査員さん(実際に世帯を訪問するインタ ビュアーさん)の数は約83万人、予算は650億円でした。この国勢調査は「統計法」という法律によって記載、提出が義務付けられています。そうです。義務な んです!

プライバシーの問題がある、不必要な設問が含まれている、予算をかけすぎだ、結局不完全な情報だ、といった批判、指摘があります。どれも一理あるでし ょう、確かに改善の余地はあると思います。とはいえ、国勢調査が重要な調査であることに間違いありません。国勢調査がきちんと行なわれなければ、正確な人 口も分からず、正確な平均寿命も算出できません。答えるメリットがない、と言う人がいます。確かに個人ではダイレクトに実感することはないでしょう。けれ ど、国勢調査のデータは今回のコラムの平均寿命だけでなく、他の様々な公的な統計、及び、企業活動の基礎データとして、必ず活用されているデータなのです 。答えない人が多数出ることにより、公的なサービス、もしくは民間のサービスの品質が下がりかねないのです(僕自身、市場調査の基礎データとして、こうい った公的データを調査の基本設計に使うことは少なくありません)。

回答期限は、公式には10月7日までです。このコラム執筆時にすでに7日を過ぎていますが、確認作業等があり、以降でも受け付けているようです。もし、ま だご回答されていない方がいたら、ぜひ、回答してください!!

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ということで、最後は総務省の広報のようになってしまいました...。 が、数字の使われ方と共に、正確なデータの必要性、重要性が分かってもらえれば、 調査業界の片隅に暮らす人間として、また、このコラムの書き手として、とても嬉しいです。調査とは、データを集めることで、世の中を豊かにするチャンスを 見つける、不公平を是正する、そういった仕事だと思っています。

ご意見、ご質問等、ありましたらtwitterアカウント、@masayuki_iまでお願いします。

では、また次回、お会いしましょう! (了)

PROFILE

IKENAGA Masayukiさん

IKENAGA Masayuki(いけなが まさゆき)
外資系の市場調査会社(マーケティング・リサーチ会社)勤務。
自動車、生活用品 、顧客満足関連を中心に、国内外問わず多くの調査を担当。景気がいい頃は、海外出張も多かったけど、不景気に伴い今は地味に内勤。時々、アンケートの「中 の人」をしています。数字を扱う調査が多いですが、実は根っからの文系。座談会、インタビュー形式の調査経験も豊富。30歳目前で体重管理が目下の最重要プ ロジェクト。和食大好き。

twitter公式アカウント@masayuki_i


第一回「日本のインターネット普及率」 第三回「七五三人口の真実」

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