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第二回「コミュニタリアニズムを少しだけ掘り下げてみた」

ハーバード白熱教室inJAPANを取り上げた第一回に続き、第二回となる今回はマイケル・サンデルと彼が提唱するコミュニタリアニズム(共同体主義)について取り上げてみようと思う。サンデル教授(以下"教授"を省略させて頂く)の著書やコミュニタリアンの用いるワードとしてよく目にする「共通善」「熟議」「正義」「公共哲学」...これらがどこから来ているのか。どういうことなのかを、あくまで「浅く」少しだけ(笑)掘り下げてみる。本気で掘り下げるにはかなりの思考の時間と読書量を要するので、今回は自分も含めいわゆる「政治哲学の素人向け」にまとめてみよう...というアプローチだ。

というわけで、話を始める前に2点抑えておこう。まず1点目はサンデルの「民主主義の不満」のサブタイトル"公共哲学を求めるアメリカ"やインタビューなどでも良く出てくる「公共哲学」というワード。これは1980年代に起こった「リベラル・コミュニタリアン論争」以降に政治哲学・社会哲学・法哲学といったものが「公共哲学」として統一されたもので、米では学会まで出来ているそうだ。この公共哲学の中心となる概念が「共通善」になるのだが、共通善を軽く掘り下げるのにもこれまた結構なボリュームになるので、それはまたの機会に(笑)

そして2点目。こちらはそもそもの「政治イデオロギー」について(20世紀以降)軽く整理しておきたいと思う。以下政治思想の簡単なまとめ。

≪極左:共産主義 - 左派:社会主義 - 中道:リベラル - 右派:保守主義 - 極右:ファシズム≫

右派と左派っていう左右の区分は、もともとはフランス革命のときの議会(の座席の位置)からきているらしい。議長から向かって右側が「これ以上革命の進展を望まない」という意見の保守派。左側に「革命を更に進めていこう」という急進派が位置取ったことに由来している...という説があるそうだ。

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そういった流れで20世紀においては上図の並びのように、そして産業革命以後では、産業社会・資本主義の秩序を守ろうとする「右派」、革命・経済的な意味も含めた平等な社会主義を目指す「左派」となったらしい。もし、右と左の議論について気になる方がいれば伊の学者ノルベルト・ボッビオの「右と左」というベストセラーをお読み頂ければと思う(笑)。

と、折角なので、ちょっとだけ触れておこうか...ボッビオについても(早速脱線)。ボッビオによれば、右と左を分けるのは「平等観」。そして過激か穏健かを分けるのが「自由観」。これを元に四つの政治的立場に分類されている。

  • ①平等主義+独裁主義=極左
  • ②平等主義+リベラリズム=中道左派
  • ③リベラリズム+不平等主義=中道右派
  • ④半リベラリズム+反平等主義=極右

この場合「共通善」を唱えるコミュニタリアニズムは中道左派。アメリカの(現在の)リベラルも同じく中道左派寄りが割合的には多いとされている。また、共通善を否定する立場にある「私的な利益」「特定の利益」ネオコンに代表される「極端な国益の追求」というところで、ネオコンやネオリベラルは右派と位置づけることができそうだ。この場合の「共通善」はサンデルも言っているように【ごく一般の市民の中に内在し、人として共通して持っている「善」(孟子の性善説に出てくる"惻隠の心"とほぼイコール)の事】を指すらしい。現代のコミュニタリアニズムは"平等で民主的なコミュニティを求め、福祉政策重視、国家よりも中間的なコミュニティを重視"する。そういう意味ではやはり「中道左派」と位置づけるのが良さそうだ。と日本を代表するコミュニタリアンの菊池理夫さんの著書からも受け取れる。

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さて、ようやくメインの話題(笑)。次はマイケル・サンデル自身に影響を与えたと思われる2名の人物について触れてみようと思う。一人はアラスディア・マッキンタイア(哲学・倫理学者)、もう一人はチャールズ・テイラー(政治哲学者・政治家)だ。

マッキンタイアは著書の「美徳なき時代」で、サンデルに関わりの深い"アリストテレス哲学"を高く評価。そして近代以後の哲学・政治を全面的に批判した人物。人間の本性を、名誉・快楽・金銭のような「外的な善」ではなく「コミュニティ全体にとっての善(内的な善)」を追求する徳を所有する事とした。この場合の「コミュニティ」というのは「家族・近隣・都市・部族」などを指すらしい。その上でアリストテレス的な「ポリス」、現在では普通の市民による「ローカルなコミュニティ」(学校、農場、職場、診療所、教区etc...)を擁護したそうだ。そこでは合理的な熟議を行、「共通善」を実現するための日常的な政治や人々が相互に助け合う福祉が実行されているという主張をした。

...ここで重要ワードがいくつか登場するので一旦チェック。「ポリス(国)」「熟議(熟慮して議論を行うこと)」「共通善」ひととおり抑えておこう。(「熟議」は最近耳にする"新しい公共"に興味ある人たちから耳にするワード、そして冒頭でも一瞬触れたが「共通善」についてはまたの機会に触れてみたいと思う。)

さて次に、テイラーについて。カナダ生まれで「哲学論文集」によって、コミュニタリアンの哲学的立場を示したとされている人物。自然科学をモデルとした自然主義(社会契約論、功利主義なども含まれる)を批判。学問的には"人間は自らが属するコミュニティの中で言語を通して自己解釈をしていく存在である"という「解釈学」、と「哲学的人間学」を擁護。政治思想的には、共有された善や目的がコミュニティのものである...という「共和主義」を評価。自らをトクヴィル主義(トクヴィル:フランスの思想家)とし、民衆の政治的無関心から生じる、中央集権的な官僚支配である「柔らかい専制」を問題とするも、何より「共通の目的」が失われ、繋がりを欠く社会の「断片化」を問題としている。この問題に対しての解決策として、地方分権の促進、政党と「新しい社会運動」が交流していくことが必要であるとテイラーは言っている。「共通善」として「愛国主義(パトリオティズム)」が重要であることを強調したのもこの人なのだ。

といった具合に、二人を軽くさらったところで、サンデルについてちょっと触れてみよう。サンデルは現在のリバタリアニズムやリベラリズムを「個人がもっている権利・正義」を、人々が"絶対的に正しいもの"として持っており、正義をもつ「前提」となるはずの「共通善」より重視している...という点を指摘している。これは「個人の正義<<共通善」というサンデルの考えから起きている指摘と思われる。それは既出の2人の人物とコミュニタリアニズムを少し掘り下げるだけで十分合点がいく内容ではないだろうか。個人の正義の前には、その前提となる共通善の認識ありきということなのだろう。

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JUSTICEの講義を思い浮かべてみよう。自分が"正しい"と判断する前に、ああやって公共的な場で様々なケースを用いて「正義」を議論(熟議)する場がある。「そこに答えはない」...とサンデルは言っているが、あの講義の内容そのものが「正義よりも共通善を重視する」というコミュニタリアンのプロセスに当てはまるのではないだろうか。サンデルの講義は、他教授のソクラテスメソッドとは違う(双方向の対話を重視するという点で特に)という話をする人たちがいる。その中に、実際にはJUSTICEの講義はサンデルが指摘したリバタリアニズムとリベラリズムの問題点へのコミュニタリアン的なアプローチという意味合いも含まれているのでは...という深読み(ミーハーな憶測)をちょっとだけしている自分(笑)。

ところで、コミュニタリアニズムを「共通善の政治学」と呼んだサンデルは"(市民による)公共哲学の場"というワードも使っていた。彼の意識する「コミュニティ」というのは果たしてどのあたりか。サンデルのことを書いた本によればそれは、「企業経済」と「官僚制国家」の両方から侵食された地域社会のような「中間的な形態」のコミュニティだそうで、サンデルはその重要性を指摘していたのだ。その為に米の伝統として知られる「公民的共和主義」の再活性化を強調してきたらしい。

彼の言う「共和主義」とはアリストテレスの言う比較的小さなコミュニティ(学校、職場、教区etc.)における政治参加を重視するらしいが、サンデル自身は、特定のコミュニティにおいて支配的な価値を絶対的に正しいと考える「多数決主義」という意味でのコミュニタリアニズムであれば、自分は明確にコミュニタリアンではないと断定している。

と、今回はここまで。サンデルによってある意味日本でも再び脚光を浴びることとなった政治哲学の分野、とりわけ現代コミュニタリアニズムは、実際にそれに近いとされ同一視される仏の多文化主義をはじめ、実際の政治や政策にも影響を与えている。次回は今回途中で登場した"共通善"について、"公共哲学"というキーワードと共に、今回同様ほんの少しだけ掘り下げていく予定。あくまで"予定"なのだが(笑)。

●主要参考文献

「現代コミュニタリアニズム入門」「政治哲学入門」「自由主義と正義の限界」「これからの正義の話をしよう」

PROFILE

渋沢生悟さん

渋沢生悟(しぶさわ しょうご)
NGO Freedomwing代表。
Web関連企業で働きながらNPO・NGO方面でも活動中。ベンチャー企業での経験が長く、紙媒体の制作、WEB制作、経営企画、CSR、WEB広告(主にSEM)を経験。NPO・NGOについては今年で4年目。元々は開発途上国の子ども達への支援(教育分野)と国内の地域活性化がキッカケ。現在は世界各国の紛争、現代史、政治哲学、国連etc...というようなキーワードで勉強中。チェ・ゲバラをリスペクトする30歳。家族は妻と娘1人。元役者で映画好き、元ゲーマーでゲーム好きという側面もありTwitterでのツイートはついつい話題が拡散しがち。

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